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東京高等裁判所 昭和52年(う)1262号 判決

被告人 高橋進 西山正一

主文

被告人高橋進の本件控訴を棄却する。

同被告人に対し、当審における未決勾留日数中二八〇日を原審の言渡した刑に算入する。

原判決中、被告人西山正一に関する部分を破棄する。

同被告人を懲役四年に処する。

同被告人に対し、原審における未決勾留日数中一、三五〇日を右の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人両名の弁護人保坂紀久雄、被告人西山正一提出の各控訴趣意書、同補充書、同高橋進提出の控訴趣意書に、これらに対する答弁は、検察官提出の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

第一弁護人の控訴趣意第一点(爆発物取締罰則無効の主張)について。

所論は、要するに、右罰則は憲法一一条、一二条、一三条、一九条、二〇条、三一条、三六条、三八条一項に違反していて同法九八条一項により(昭和二二年五月三日限り)無効であり、または昭和二二年法律第七二号一条に該当する結果、同年一二月三一日限り無効となつたのに、原判決が、被告人両名に関する原判示第一〇、同高橋に関する原判示第四、第六ないし第八の各事実に対し、有効とする根拠につき十分な理由を付することもなく、右罰則を適用したのは、理由不備ないし判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤りである、というのである。

しかしながら、まず、有罪判決の理由として法令が有効であることの根拠の判示は、もともと法の要求するところではないから、理由不備の論旨は失当である。しかも、爆発物取締罰則が憲法施行(昭和二二年五月三日)当時、現に効力を有する「法律」として取扱われ、憲法施行後も法律としての効力を有していること及び右罰則が、その内容において日本国憲法三一条その他の各条項に反しないことは、原判決摘示の判例をはじめ最高裁判所の数次の判例から明確であつて、原判決に所論の法令適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。

第二同第二点(訴訟手続の法令違反の主張)について。

所論は、要するに、被告人高橋に関する原判示第三の事実(寒風山ダイナマイト等窃取)について、右窃盗の被害届は、同被告人の自白を前提として、捜査官の誘導により作成されたもので信憑性を欠き、現場の係員である証人吉田順作は被害の有無自体につき記憶がなくまた、証人菅原庚橘(被害届作成者)は現場の実務を担当していない人物であり、さらに、実況見分調書は右自白の延長にすぎず、結局、同被告人の自白を補強し得る証拠は存在しないのと同じであるに、原判決が自白のみを根拠に有罪を認定したのは、刑訴法三一九条二項に違反し、右違反は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

しかしながら、原判決が寒風山ダイナマイト窃盗認定の証拠として挙示する第一〇回公判調書中、証人菅原庚橘、同吉田順作の各供述部分、実況見分調書、被疑者引当り捜査報告書等は、いずれも信憑性に疑問はなく、それぞれが相まつて右窃盗に関する被告人高橋の自白を補強するに十分である。(のみならず、原判決は右窃盗認定の証拠として挙示していないが、原審相被告人監物今朝雄は検察官に対する昭和四七年六月五日付、同月七日付、同年一〇月二五日付各供述調書謄本中及び原審第四〇、四一回各公判調書のうちの供述部分で、昭和四六年一〇月八日ころ、原判示第五の窃盗に先き立ち秋田市内の当時の被告人高橋のアパートにおいて同被告人および鎌田俊彦、鎌田克已、熊谷信幹と飲酒した際、同被告人と鎌田克已、熊谷信幹の三名が山の中の工事現場からダイナマイト等を調達してきたことが話題になつた旨供述しており、右各供述((もつとも、各供述調書謄本は原判示第五、六の事実との関係で取調請求がなされている。))も被告人高橋の自白を裏づけるものである。)なお、所論指摘の被害届は、原判決が挙示していないことはもちろん、証拠調の請求はなされたものの、不同意により撤回され、証拠として取調べられていないから、判断の限りでない。論旨は理由がない。

第三同第三点(事実誤認・訴訟手続の法令違反の主張)について。

所論は、要するに、被告人高橋に関する原判示第四の事実(熊谷方居室でのダイナマイト等所持)について、原判決には、(一)主観的目的、所持、爆発物の三点で判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があり、然らずとするも、(二)同被告人の自白のみで有罪を認定した点で判決に影響を及ぼすべき訴訟手続の法令違反がある、というのである。

しかしながら、まず、所論(一)につき、原判示第四の事実は原判決挙示の関係各証拠によつて優にこれを認めることができ、原判決に所論のような事実誤認があるとは考えられない。

右のうち、特に、主観的目的および所持について付言すると、(1)弁護人は、爆発物取締罰則の主観的目的について、その内容たる事実の認識は単なる予見ないし未必的認識をもつては足りず、確定的認識を必要とすると解すべきところ、被告人高橋が、当時、いつ、どこに爆弾を仕かけるかにつき確定的認識を有していたことの証拠はない、と主張する。しかし、原審で取調べた関係各証拠、とりわけ、被告人高橋の検察官に対する昭和四七年七月五日付、同年六月一二・一三日付各供述調書謄本(もつとも、後者は原判示第五ないし第九の事実との関係で取調請求がなされている。)などを総合すれば、被告人高橋は、昭和四四年に原判示の経緯で秋田在住の共犯者熊谷信幹及び同鎌田克已らと知り合い、同人らを介して右鎌田の実兄鎌田俊彦のグループ(以下鎌田グループという。)に所属するようになつたものであるが、右熊谷、鎌田克已も自己と同様、権力機関に対する武装闘争の実行を志向していたところから、昭和四六年五月以降、右両名らと黒色火薬を用いて造つた鉄管爆弾の爆発実験を再三に亘り行なつていたこと、鎌田グループでは、同年九月一七日に鎌田俊彦、熊谷らが共謀して行なつた原判示第二の高円寺駅前交番爆破事件を高く評価し、爾後も爆弾闘争を継続して行く方針を固めたが、被告人高橋も、共犯者の熊谷及び鎌田克已と同じく、右方針に賛同していたこと、同年九月二〇日過ぎ、右熊谷、鎌田克已の両名と被告人高橋が原判示第四の熊谷の居室に集まつた際、熊谷は同被告人らに対し、「高円寺の交番の爆弾闘争は赤軍の青砥から貰つたダイナマイトで造つた爆弾だつたので成功したのであり、今後、警察や交番に爆弾を仕かけるためには今までのような黒色火薬では駄目であり、どうしてもダイナマイトを使わなければならないから、ダイナマイトを盗もう。」という趣旨の話をし、同被告人らもこれに同調した結果、右三名は同年九月末ころ原判示第三の寒風山ダイナマイト等窃取の犯行を敢行したこと、右犯行により調達されたダイナマイト等は、原判示第五の犯行で窃取されたダイナマイト等と合わせて、同被告人ら三名も加担した原判示第七ないし第一〇の犯行の用に供せられたことが認められる。そして右事実に徴すれば、同被告人ら三名には、本件所持当時、原判示第三の犯行で調達したダイナマイトを将来警察署、交番等の施設に対して使用し、もつてダイナマイトの持つ絶大なる破壊力により公共の安全、秩序を侵害し、警察官らの身体を傷害し、または警察施設等の財産を損壊する確定的認識ないし意図のあつたことが明らかである。もとより爆発物取締罰則の要件であるいわゆる主観的目的があつたというには右認識ないし意図が認められれば十分であつて、それ以上に爆発物を具体的に使用する日時・場所等まで認識することを要しないことは検察官が答弁中で主張するとおりである。

また、(2)弁護人はダイナマイト等を隠匿所持したと認定された場所は熊谷方居室であり、同所は、被告人高橋のところから離れていて、その後、同被告人は一度も右ダイナマイト等の所在を確認していない、他人の居室内にダイナマイト等を所持するということは通常あり得ない、と主張する。しかし、原判決は、同被告人と熊谷及び鎌田克已の共謀による所持を認定したものであり、原判決挙示の関係各証拠によれば、右共謀の事実は十分肯認できるから、弁護人指摘の事情は所持罪の成立を何ら妨げるものではない。

次に、所論(二)につき判断するに、すでに控訴趣意第二点に関する判断で摘示した各証拠は、被告人高橋らの共謀による所持の事実を認定するうえで、それぞれ相まつて同被告人の自白を優に補強するに足りるものであるから、(共犯者熊谷、同鎌田克已の供述調書等が証拠として取調べられていないとはいえ、)原判決に所論のような訴訟手続の法令違反は存しない。

論旨はいずれも理由がない。

第四同第四点(法令適用の誤りないし事実誤認の主張)について。

所論は、要するに、被告人高橋の原判示第六のダイナマイト所持に関し、爆発物取締罰則の要件であるいわゆる主観的目的は厳格に解すべきところ、原判決は、被告人高橋が爆発物をいつ、どこに仕かけるかについて確定的認識を有していたと認め得る証拠がないのに、主観的目的の存在を認定したが、右は原判決が法令の解釈・適用を誤つたか、あるいは事実を誤認した結果であり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。

しかしながら、いわゆる主観的目的の内容たる事実の認識として要求されるところのものについては、すでに控訴趣意第三点に対する判断で説示したとおりであつて、原判決に法令の解釈・適用の誤りは存しない。のみならず、同第三点に対する判断に当たつて認定した各事実に原判決挙示の関係各証拠、殊に、被告人高橋及び原審相被告人監物の原審公判調書中の各供述部分並びに原審公判廷における各供述を総合して認められる以下の事実、すなわち、原判示第五の犯行の当日、秋田在住の被告人高橋と前記熊谷、鎌田克已は、東京から秋田へやつて来た原審相被告人監物及び前記鎌田俊彦とともに原判示第六の阿部アパートの当時の被告人高橋の居室に集まり、飲酒しながら雑談した際、寒風山の工事現場から同被告人らがダイナマイト等を窃取してきたことや東京の赤軍派等の動きが話題にされたのち、来たるべき闘争にはダイナマイトが必要であり、また、仙台の国見米軍無線中継所を爆破するためにもダイナマイトは必要であるから盗りに行こうということになり、原判示第五のとおり、右五名共謀による手形山火薬庫からのダイナマイト窃取が敢行されたことの事実を併わせて考慮すると、被告人高橋ら五名には、本件所持当時、原判示第五の犯行により調達したダイナマイトを将来警察署、交番、無線中継所等の施設に対して使用し、もつてダイナマイトの持つ絶大なる破壊力により、原判示第四と同様、公共の安全と秩序を侵害し、警察官らの身体を傷害し、または右施設等国家の財産を損壊する確定的認識ないし意図のあつたことが明らかである。したがつて、同被告人らに主観的目的を認めた原判決に事実誤認の廉は存しない。論旨は理由がない。

第五同第五点(事実誤認及び法令適用の誤りの主張)について。

所論は、要するに、被告人高橋の原判示第七の事実に関し、(一)被告人高橋には、他人の身体を害する目的がなかつたのに、原判決が右目的を認めたのは、判決に影響を及ぼすこと明らかな事実の誤認であり、(二)爆発物取締罰則三条違反の行為者が一条違反の行為に出た場合には、前者の罪は後者の罪に吸収されると解すべきであるから、本件爆発物製造の罪は原判示第八の爆発物使用罪に吸収されるとすべきであつたのに、原判決がこれを認めず、右両罪を併合罪として処断したのは、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤りである、というのである。

そこで、まず所論(一)について検討するのに、原判決挙示の関係各証拠、とりわけ、証人西巻幸作の原審第三九回公判調書中の供述部分、被告人高橋の検察官に対する昭和四七年六月一二・一三日付供述調書謄本を総合すれば、本件爆発物を製造した際、できるだけ通行人等一般人に危害を及ぼさぬよう同被告人らは爆発物の時限装置を、午前二時頃に合わせたものの、右爆発物を都内の警察施設に仕かけて、これを損壊するとともに、施設内にいる警察官の身体に危害を加え、もつて世間を聳動させようとの意図をなお有していたことが明らかである。したがつて、同被告人らには治安を妨げ、財産を害する目的のみならず人の身体を害する目的もあつたと認定した原判決には所論のような事実誤認は認められない。論旨は理由がない。

次に、所論(二)について案ずるに、爆発物取締罰則三条の規定が一面で同罰則一条の罪の予備罪としての性格を有することは否定できないとはいえ、原判決が刑法における予備罪とは異るとして指摘する同罰則三条の規定の特質、とりわけ、同条が所謂他人予備の場合も含み、且つ、同条違反の行為に対し狭義の共犯の成立が肯定されること及び同条の法定刑が同罰則一条のそれに比して、強盗と同予備あるいは放火と同予備の場合ほど軽重の開きがないことに鑑みれば、同罰則の立法趣旨を以下のように、すなわち、治安を妨げまたは人の身体、財産を害する目的をもつて爆発物を使用することは社会生活の平穏を著しく害するものであるが、右目的をもつて爆発物使用の準備をすることも、同様、社会不安を醸し出す一大原因となるから、同罰則一条によつて右目的をもつてする爆発物の使用を禁遏するとともに、同罰則三条によつて右目的をもつてする爆発物の製造、修理、輸入、所持等の使用準備行為を厳に禁遏するところにあると容易に理解でき、同罰則三条該当の行為は、同罰則一条の使用罪の成立(実行着手)の如何にかかわらず、独立の可罰性を有するものと解される。したがつて、右と同旨に出て原判示第七の罪と同第八の罪とを併合罪として処断した原判決には法令適用の誤りの廉はなく、論旨は理由がない。

第六同第六点(理由不備、法令適用の誤りないし事実誤認の主張)について。

所論は、要するに、被告人両名の原判示第一〇の仙台無線中継所爆破事件に関し、(一)原判決が、法令の適用欄において爆発物取締罰則一条を挙示しながら、罪となるべき事実欄においては同条所定のいわゆる主観的目的の存したことを摘示しなかつたのは理由不備である。(二)被告人高橋と他の共犯者との間に仙台無線中継所爆破に関する謀議が成立した事実はないのに、原判決が右犯行の実行行為を担当しなかつた同被告人を正犯と認定したのは判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認ないし法令適用の誤りである。(三)被告人西山は、共犯者監物らのために車での運送を嫌々ながら手伝つたにすぎず、実行行為を担当しなかつたことはもちろん謀議に参加したこともないのに、同被告人を正犯と認め、正犯の刑責を負わせた原判決には、前同様、事実誤認ないし法令適用の誤りが存する、というのである。

そこで順次検討するのに、まず、所論(一)について、なるほど、原判決が罪となるべき事実として判文上「治安を妨げる目的」も「人の身体、財産を害する目的」も明示していないことは所論指摘のとおりである。しかし、原判示冒頭の事実をも含めて原判決が詳細且つ具体的に認定・摘示した本件仙台無線中継所爆破の計画、実行に至るまでの経緯に鑑みれば、被告人らにおいて公共の安全と秩序及び他人の財産を害する目的をもつて本件犯行に及んだことを原判決が認定・判示したものであることは自ずと肯定できるから、「治安を妨げる目的」、「人の財産を害する目的」ないしこれに類する文言を使用しなかつた点多少明確さに欠けるきらいはあるが、原判決の事実摘示に理由不備の瑕疵が存するとまでは断定できない。論旨は理由がない。

次に所論(二)、(三)の被告人高橋、同西山の正犯性について検討する。

所論(二)については、原判決挙示の関係各証拠によると、以下の事実、すなわち、仙台無線中継所の爆破は、もともと、秋田在住の被告人高橋と前記熊谷信幹、鎌田克已の三名で、昭和四六年五、六月ごろから思い立ち、右三名において、これを実行しようと企図していたものであること、その後、右三名は、同年一〇月八日ごろ、原判示第五の犯行に先き立ち、原判示のように、右爆破の件を前記鎌田俊彦及び原審相被告人監物に発案したことなどから、仙台無線中継所の爆破は同人ら鎌田グループの将来の行動計画の一環として取上げられることとなり、被告人高橋は、右グループの決定に基づき、同月二四日ごろ監物、熊谷らとともに仙台無線中継所の下見に行き、写真を撮影したこと、右下見の際に撮影した無線中継所の写真を見ながら鎌田のグループでは、同年一一月初めごろ、原判示亀川方で仙台無線中継所爆破の実行に踏み切ることを決定したが、被告人高橋は右謀議に加わり、且つ、実施計画の細目の策定は監物及び熊谷の両名に委ねることを了承したこと、その結果、右両名は原判示の計画案を作成したうえ、同月一四日ごろ、原判示西山化学工業所工場二階で出席したグループ員に右計画の概要を説明し、ここにおいて右両名及び梶原譲二が同月二一日原判示の犯行を実行したことが認められる。そして右各事実に鑑みると、被告人高橋は、本件犯行の実行行為を担当しなかつたとはいえ、右犯行日までに、監物、熊谷ら共犯者との間で、右共犯者の行為を利用し、自己の意思、すなわち前記仙台無線中継所爆破の意思を実行に移すことを内容とする謀議(最高裁判所大法廷昭和三三年五月二八日判決、集一二巻八号一七一八頁参照)を遂げたことは明らかであつて、右犯行につき共同正犯としての刑責を免れない。

この点、原審相被告人監物は、原審公判廷及び原審公判調書中において、本件犯行は、当初、被告人高橋ら三名が計画し、下見をしたものとは意義・目的を異にする趣旨のことを供述し、また、被告人高橋は、当審公判廷において、昭和四六年一〇月八日ころ、原判示第五のダイナマイト窃取に反対して以来、他の共犯者から積極的に疎外、除外されていたものであり、本件犯行には関与していない旨供述する。しかし、本件犯行は、前示のように、鎌田グループの爆弾闘争の一環として計画、実行されたものであり、また、同被告人の原審公判廷における供述、原審公判調書中の供述部分及び検察官に対する昭和四七年八月一五日付、同月一八日付各供述調書謄本によれば、同被告人は仙台無線中継所爆破の実行行為者に選ばれなかつたことを知つてからのちも、鎌田グループと絶縁することもなく、同グループが右爆破と呼応して東京で決行する予定の警察署爆破の行動に参加するため、当時居住していた新潟県燕市の被告人西山方を発つて上京したこと及び東京都内喫茶店で行なわれた本件犯行後の総括会議にも出席したことが窺われ、これらの事実に徴すれば、原審相被告人監物及び被告人高橋の前記各供述は到底信用できない。

以上と同旨に出た原判決には所論のような事実誤認ないし法令適用の誤りの廉は存しない。

所論(三)については、これに反して、被告人西山は、原判決挙示の関係各証拠によると、原判示のとおり、自動車を運転して本件爆破実行担当者監物らを爆破現場まで運び、同人らがダイナマイトを仕かけ終つたのちは同人らを乗せて新潟県燕市の自宅まで逃走し、残余のダイナマイトを同人らから預り、隠匿・保管したことが認められるものの、同被告人が、被告人高橋のように、共犯者監物、熊谷らとともに自己の犯罪意思を実行することを内容とする謀議を遂げたものと認めるに足る証拠は十分でない。

もつとも、被告人西山の原審公判廷における供述、原審公判調書中の供述部分、検察官に対する同被告人の昭和四七年七月一九日付、同年八月一六日付、同月一七日付、被告人高橋の同月一六日付、同月一九日付、原審相被告人監物の同月一七日付及び沼知義孝の同年九月四日付各供述調書謄本を総合すれば、右監物らは、昭和四六年一一月一四日ころ、前示のように、西山化学工業所方工場二階において、鎌田グループの列席者に対し仙台無線中継所爆破計画の概要を説明したが、被告人西山は、右会合のために実父経営の工場二階を提供したばかりか、この会合に出席し、中継所爆破の日どりと実行担当者を知ると同時に、実行担当者が爆破現場に赴き、且つ現場から逃走するため自動車を運転して欲しいとの監物らの申出を一応了承したこと及び爆破行為の直前に監物、熊谷ら実行担当者が、初めに計画したアンテナ二基ではなくアンテナ一基と高圧受電盤に爆弾を仕かけようと仙台市内の自動車内等で打ち合わせているのを傍で聞いており、また、その際、同人らから予告電話をかけることの相談を受けてこれに賛同したことが認められる。しかし、他方、同被告人の原審公判廷における供述、原審公判調書中の供述部分、検察官に対する昭和四七年七月一九日付、同年八月一六日付、同月一七日付各供述調書謄本及び司法警察員に対する同年七月二三日付供述調書並びに原審相被告人監物の原審公判廷における供述及び原審公判調書中の供述部分を総合すれば以下の事実、すなわち、被告人西山が前記会合のために西山化学工業所方工場二階を提供し、無線中継所爆破実行担当者の運送、逃亡のために自動車を運転したのは、積極的・自発的な意思からではなく、同被告人が鎌田グループの爆弾闘争に対して態度をあいまいにしていたことから、同被告人を同グループの行動に何とか巻き込むべく既成事実を作ろうとする監物らの作為が与つていること、同被告人は、本件犯行ののち、監物らから残余のダイナマイトを預かるに際し、そんな危いものは嫌だ、と一旦断つたところ、同人らから「俺達は危い思いをして持つてきたのだから、今度はお前が預かれ。お前はそんな風な考えでよいのか、商売ばかり熱心にやつて我々の活動に反するのではないか、黙つて預かつておいてくれ。」と言われ、やむなく預かつたこと、同被告人は、自動車を運転して仙台に行くことについて最初は色よい返事を与えておらず、前記自宅における会合で一応了承したものの、当日は食事の世話やあと片づけ等で席の暖まる暇もなく(この点につき監物は被告人西山が乗気じやなくて話も避けている印象であつた旨原審公判廷において述べている。)、いかなる爆発物をどこに、どれくらい、どの様にして仕かけるかという具体的ことがらについて十分聞知していなかつたことが認められる。したがつて、右の事実に鑑みれば、原判決が、当初は逡巡する面があつたものの、一一月一四日以降はむしろ積極的に犯行に加担していた、と判断した点については大いに疑問が残るのであつて、前示一一月一四日ころの自宅工場及び犯行直前の仙台市内での被告人西山の行動をもつて、同被告人が前記共同謀議を遂げた証左であるとすることは到底できない。とすれば、同被告人は、本件においては、結局、前記自動車の運転により、監物ら実行担当者等の本件犯行を容易にしたにすぎないものというべく、同被告人に対し、共謀による共同正犯を肯認した原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認の存することが明白である。

以上のとおりであるから被告人両名の正犯性に関する(二)、(三)の論旨中、被告人高橋に関する(二)の論旨は理由がないが、同西山に関する(三)の論旨は理由がある。

第七同第七点(事実誤認の主張)について。

所論は、要するに、原判示第一一のダイナマイト所持に関し、被告人西山は本件ダイナマイトを保管していたものではなく、防風林内に廃棄したものであるから、同被告人につき右ダイナマイト所持の事実を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認が存する、というのである。

しかしながら、原判決挙示の関係各証拠、とりわけ、同被告人の司法警察員に対する昭和四七年七月二三日付及び検察官に対する同月一九日付、同月二二日付(各謄本)各供述調書、証人西巻幸作の公判調書(第三九回)中の供述部分を総合すれば、同被告人は、仙台無線中継所爆破の実行担当者監物らから、前示のように、右犯行に用いた残りのダイナマイトを押しつけられる形で預かつたとはいえ、間もなくあとで取りに行くからどこかに埋めて置くようにとの指示を得て、被告人高橋とともに右ダイナマイト約七〇本を、五本位ずつビニール袋に入れて小分けし、さらにこれらを重ねてビニール袋に入れて袋の口を結んだうえ、リンゴ箱に入れ、これをシートカバー様のもので包んでガムテープで上からとめる等防湿の方法を講じたのち、昭和四六年一一月二七日ころ、原判示のように右ダイナマイトを防風林内に埋めたこと及び翌年二月初めころ、引取りにきた鎌田グループの熊谷、西巻らに右ダイナマイトを堀り出して引渡したことが認められるから、同被告人について右期間中のダイナマイト所持を認定した原判決には、所論のような事実誤認の廉はなく、論旨は理由がない。

第八同第八点(量刑不当の主張)について。

記録並びに原審で取調べた各証拠に基づき検討するに、被告人高橋の原判示爆発物取締罰則違反の各犯行は、罪質上、公共の安全と秩序及び人の身体、財産の安全を侵害し、もしくは侵害することとなる極めて危険、重大な犯罪であるうえ、同被告人の原判示各犯行の動機・態様も、右各犯行が鎌田グループの一部が信奉する独自の暴力革命思想に影響されて、共犯者とともに目的のために手段を選ばず、法秩序も他人の身体、財産の安全も無視して組織的・計画的に行なわれたものである点において、非常に悪質で情状酌量に値しない。また、右各犯行の結果も、原判決が指摘するように、発生した危険、被害、実害等は相当大きく、これを量刑上軽視できない。

右の諸点に、同被告人が若年で、これまで前科歴のないこと、同被告人は、仙台無線中継所爆破の実行行為に加わつておらず、各犯行の加功の程度も、同じ鎌田グループの前記熊谷、鎌田克已らと対比して従属的であり、昭和四七年一月ころ以降、右鎌田グループとの関係を絶ち、改悛の情も認められることなど同被告人のために有利な事情をすべて参酌したうえで同被告人を懲役八年に処した原判決の量刑はやむを得ず、これが重きに失するとは考えられない。同被告人に関する量刑不当の論旨は理由がない。

なお、弁護人は、当審弁論において、原判示第六の事実に関し、所持の目的のほか所持の事実自体をも争うが、右は適法な控訴趣意と認めるのに疑問があるうえ、原判決挙示の関係各証拠によれば所持の事実も優に肯認できる。

第九被告人高橋進の控訴趣意について。

同被告人の所論は、原判決が認定した「本件各犯行に至る経緯」につき事実誤認が存し、原判示第一〇の仙台無線中継所爆破の犯行につき、単に謀議に参加したに止まり、実行行為に参加しなかつたものは爆発物取締罰則四条で問擬されるのは格別、同罰則一条の共同正犯の刑責を問われるべきでないから、右の点で原判決には法令適用の誤りが存する、という主張を除いて、すべて弁護人の控訴趣意第一点、第三点の(一)、第四点、第五点の(一)、第六点の(一)、(二)、第八点と同趣旨であり、これらに対する判断はすでに説示したとおりである。

右事実誤認をいう点について、原判決が挙示する関係各証拠を総合すれば、原判決が「本件各犯行に至る経緯」として摘示する事実は概ねこれを肯認でき、右認定中に判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認があるとは考えられない。また、法令適用の誤りをいう点については、論旨は明らかに同罰則四条「共謀ニ止ル」の解釈の誤解に基づくものと思われ、共犯者が同罰則一条の犯行に及んだ本件にあつては、採用の限りではない。

論旨はいずれも理由がない。

第一〇被告人西山正一の控訴趣意について。

同被告人の所論は、被告人の取調官に対する各供述調書はいずれも任意性がないのに原判決がこれを証拠として採用したのは訴訟手続の法令違反であるとの主張、本件各犯行には超法規的違法阻却事由が存するとの主張及び量刑不当の主張を除いて、すべて弁護人の控訴趣意第一点、第六点の(三)、第七点と同趣旨であり、これらに対する判断はすでに説示したとおりである。

右訴訟手続の法令違反の主張について、同被告人は、検察官に対する昭和四七年八月九日付供述調書謄本中で、同被告人が被疑事件に対する当初の黙秘を解いた理由に関し、警察の取調でいろいろ追及されて耐えられなくなつたからでも、警察での取調の方法が威嚇的であつたからでもなく、将来のことも考えて、それまでの考え方や生活を整理・清算しようと考えるに至つたからである旨供述しており、また、同被告人は、司法警察員、検察官に対する各供述調書中で、経験して記憶している点は断定的に、記憶していない点は記憶していない旨、知らない点は知らない旨、推測の点は推測である旨それぞれ明確に区別して供述しているから、以上の点と証人岩間拓生の原審公判調書(第四六回)中の供述部分などを併わせ考えると、原審で取調べた同被告人の取調官に対する各供述調書が任意になされたものであることは明白であり、本件記録を精査し、同被告人の原審公判廷における供述、原審公判調書中の供述部分、当審公判廷における供述を検討しても、右各供述調書中にその任意性を疑わしめるような事情は窺われない。

また、超法規的違法性阻却事由存在の主張は独自の見解であつて、採用の限りではない。

以上のとおりであるから、同被告人の論旨中、原判示第一〇の仙台無線中継所の事実誤認の点は理由があるが、その余の論旨はすべて理由がない。

第一一結論

よつて、被告人高橋進の本件控訴は、刑訴法三九六条によりこれを棄却し、当審における未決勾留日数中、二八〇日を刑法二一条により原審の言渡した刑に算入することとする。

他方、被告人西山正一の本件控訴については、弁護人及び同被告人の控訴趣意中、原判示第一〇仙台無線中継所爆破に関する事実誤認の点は、前示のように、理由があるところ、原判決は右の罪と同第一一の罪とを刑法四五条前段の併合罪として一個の刑を科したから、全部破棄を免れないので、弁護人及び同被告人の各量刑不当の主張に対する判断を省略して、刑訴法三九七条一項、三八二条により、原判決中、同被告人に関する部分を全部破棄したうえ、同法四〇〇条但書により、さらに次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人西山正一は、

第一、被告人高橋進、原審相被告人監物今朝雄及び熊谷信幹、梶原譲二、鎌田俊彦、鎌田克已らが共謀のうえ、公共の秩序と安全を妨げ且つ人の財産を害する目的をもつて、昭和四六年一一月二一日午後一〇時ころ、宮城県仙台市荒巻字東山通称国見一二番地米軍仙台国見通信所電源室東側に存する高圧受電盤のコンクリート土台付近に時限装置つきダイナマイトを含む合計約三〇本のダイナマイトを設置し、翌二二日午前五時四三分ころこれを爆発させ、もつて爆発物を使用した際、右監物、熊谷、梶原らが右目的をもつて国見通信所施設にダイナマイト等の爆発物を仕かけて爆発させることを知りながら、同月一四日ころ、新潟県燕市大字杣木三、一〇二番地の一有限会社西山化学工業所方工場二階において、右監物ら実行行為担当者が現場で爆発物を仕かけてのち同人らを自家用車で右工業所まで逃走させることを約するとともに、同月二一日朝自家用車で新潟を発つて仙台市に赴き、同所で右監物、熊谷、梶原らと落ち合い、同日午後八時ころ同人らを自車に同乗させて前記国見通信所付近まで運び、もつて同人らの前記犯行を容易ならしめてこれを幇助し、

第二、前記高橋進と共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、同月二七日ころの夜、右第一の犯行後監物らから預つたダイナマイト約七〇本を、ビニール袋等で幾重にも包装したうえ、新潟県三島郡寺泊町大字寺泊字白岩七、三八八番地の一二小黒留治方前の国有砂防林内に埋め、翌四七年二月初めころまで同所に隠匿し、もつて火薬類を所持した

ものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人西山正一の判示第一の所為は爆発物取締罰則一条、刑法六二条一項に、同第二の所為は同法六〇条、火薬類取締法五九条二号、二一条に該当するところ、所定刑中、前者については有期懲役刑、後者については、懲役刑を選択するが、判示第一の所為は従犯であるので、刑法六三条、六八条三号により刑の減軽をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役四年に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中一、三五〇日を右の刑に算入し、原審における訴訟費用については、刑訴法一八一条一項但書により、同被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 草野隆一 高山政一 油田弘佑)

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